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2011年8月18日 (木)

梅崎春生「日の果て」

 梅崎春生は小説を読む前に名前だけ知っていた。いわゆる第三の新人達にとっては先輩の年代であり、彼らの交友録に梅崎氏のことがしばしば取り上げられていたのである。大変ないたずら好きであったそうだが、彼の経歴と作品の故に一目置かれていたように思う。

 今年の夏、終戦記念日(敗戦と言わずに終戦と言うようになった。占領軍ではなく、進駐軍である。)までに3冊の小説を読むことに決めていた。井伏鱒二の「黒い雨」、大岡昇平の「俘虜記」、梅崎春生の「日の果て」である。戦争文学という言い方でまとめてしまうと返って薄っぺらくなってしまうので好まないが、戦争との関わりで評価の高い3作品を選んだのである。そして、すでにはじめの2作品については感想文を書き終えた。

 さて「日の果て」であるが、敗色濃厚なフィリッピン戦線で、主人公の宇治中尉は上官から花田軍医を銃殺するように命令を受ける。花田は医薬品を持って戦線を離脱し、戦地の女と暮らしている。宇治は高城伍長を伴って花田の住処を襲うことになった。

 目的地に向かって熱帯の森を歩く。宇治は戦線を離脱する覚悟を決めていた。そして高城にそのことを告げる。すると彼は自分は隊に戻ると言い、踵を返す。宇治は、背後から高城を撃とうか迷ったが、結局撃鉄を引くことがなかった。高城は再び戻ってくるのである。

 花田のいる場所へ向かう。そこから東海岸への逃亡が可能だ。途中で、病に倒れて虫の息の日本兵に会う。助けを乞われるが如何ともしがたくその場を離れる。目的地に到着するがすでに花田はいない。その代わり、花田と一緒にいたという日本人の男と気のふれた日本人の女に出会う。「あんたも逃げて来た口じゃないのか。」と言われ、胸に感情が泡立ちたぎり立った。
 二人を残し、宇治と高城はインタアルへ歩を進める。そこからは東海岸まで一本道である。宇治は先ほどの男の言葉を不快に思い、ウイスキーの酔いも手伝って高城に殺して来いと命ずる。しかし、後から確かめると、高城が殺してきたのは気の狂った女の方だったのだ。そういう取り違えが起こりうることを示した点で、ここは面白い。

 今ならまだ本隊に戻ることができる。花田は寸前で逃亡したと報告すればよかったのであるし、高城も一緒だったのである。しかし、インタアルに向かう。花田を追うという名目が残っているのである。戻っても、何ら事態の進展は期待できなく、自己への抵抗、障害が増すばかりだ。

 そして、途上で花田の女を目撃する。彼らが近づくと、女は花田軍医を呼び出す。姿を現した花田は、宇治に銃口を向け撃鉄を引いた。しかし、不発だった。今度は宇治が花田を狙う。花田はうつ伏せに倒れた。
 これで終わらない。次は、花田の女が宇治を狙う。左胸を撃ち抜かれた。堤の下に転げ落ちる。宇治中尉の最期となり、物語も終わる。

 主題はなにか。戦況が行き詰まり、戦う意味が見えにくくなった時、兵は何を思うか。展望の喪失、軍紀の緩み、死への恐怖と生への渇望。生の人間を動かすものは、欲望であり、嫉妬であり、自惚れであろうか。 

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