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2011年6月 4日 (土)

バーナード・マラマッド 『喋る馬』

 バーナード・マラマッド
1914年ユダヤ系ロシア移民の子としてニューヨークのブルックリンに生まれる。教鞭を執りながら小説を書き、52年、長篇『ナチュラル』で作家デビュー。代表作に、『アシスタント』、『魔法の樽』、『レンブラントの帽子』など。86年没。

 『喋る馬』には11編の短編が収められている。分かりやすい話もあれば、かなり難しい話もある。ユダヤ系作家だけに、ユダヤ系特有の境遇を題材にしたものも多い。特にその部分は、直截的に表現されていればよいが、抽象化されていると分かりづらい。

 『最初の七年』

 靴屋には若い娘がいる。靴屋は会計士を目指して苦学している青年を知っていて、娘を嫁にやりたいと考え、二人を付き合わせようとうする。一方、靴屋にはポーランドから逃れてきた(ユダヤ)難民の男が雇われていた。三十代にも関わらず頭が禿げあがり若さがないが、読書家で、読み終わった本は解説書を付けて靴屋の娘にも読ませていた。
 靴屋の娘は父親に紹介された苦学生と何度かデートをする。しかし、お互いに興味がないようだ。靴屋ががっがりしていると、使用人の男が突如と店をやめてしまう。戻るように説得するが言うことを聞かない。この男は安い給料でも文句を言わず休まず働いていたきただけに理由が分からなかったが、何度か通ううちに、娘が好きなのだということが分かる。娘をやることはできないと突っぱねるが、最後には2年後に結婚の話を考えることを認めるのだった。
 次の日靴屋が店に出ると、すでに使用人が靴型に向かい革を叩いていた。使用人にとっては娘への想いだけが生きる力であった。

 貧乏から逃れたいという靴屋の希望と、ナチスの追手から命からがら逃げてきた男の唯一の生きる希望との相克が面白い。もちろん、後者の「希望」に巨大な重みがある。

 『夏の読書』

 高校を中退して、たまにありつくアルバイトの仕事以外はアパートにいて、父親と姉が留守中の部屋を掃除したり、音楽を聴いたり、雑誌を見たりして過ごしている青年がいた。彼もいい職について、恋人も作りたいという希望を持っていたが、高校中退では就職はかなわず、だからといってふたたび学びなおす気力も湧かなかった。
 ある夜、幼いころから小遣いをくれるなど優しくしてくれている近所の男に出会う。そして、家で毎日何をしているのかと聞かれる。青年は、出まかせに「読書をしている」と答えてしまう。しばらくして街を歩いていると、周囲の自分を見る視線が変わっているように感じた。これまでにはなかった尊敬のまなざしである。どうやら、あの知り合いの男が、勉強熱心な青年だと言い広めているらしい。青年は、決して悪い心持ではなかった。
 ふたたび男に会うと、また本を読んでいるかと聞かれる。このときは、図書館でもらったリストにある本を夏休みに読もうと思っていると言ってしまった。しかし、図書館に足を運ぶことはなかった。次に、みたび男に会うと、リストの中から読んだ本を一冊でも教えてほしいとせがまれる。言い淀んで、目を閉じていると男は立ち去っていた。青年には、男が立ち去るときに言い残した言葉が耳に響いていた。「私とおなじことをするなよ。」
 しばらくして青年は図書館に通い、猛然と読書を始めた。

 これはシンプルな話だが、ベトナム戦争が始まる前の「よきアメリカ社会」の街の雰囲気が表れているように思える。

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