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2010年12月30日 (木)

自分の生き方の意味を求めて

 以前に「オンリーワンを求めること」、「自分探しをすること」における危うさについて書いたことがある。それが自分にとって一番大事なことだと思い込んで、時間的にも空間的にも放浪しているうちに非常に生きづらい社会的ポジションに陥落している。

 漫画家になりたいとかミュージシャンになりたいと言って、普通に就職をせず、フリーターをしながら練習を続け、投稿したりオーディションを受けたりしながらデビューの機会を得ようとする。その結果、うまく認められてなんとか食えるぐらいの仕事にありつける場合もあるが、それは極めて確率が低い。
 私の知人の息子も漫画家志望で、何百万部も発行される歴史のある漫画雑誌に何度か載ったことがあるというから知名度はあるはずだが、原稿料だけではとても生活できず、今は知人の家で仕事をしているそうだ。知人もあと十年も経たないうちに定年退職になるからいつまでも子の面倒を見ている余裕はなくなる。とはいえ、彼の息子の場合はまだましな方で、一向に目が出なければいつまでもフリーターであり、それで生活が苦しくなれば派遣労働に就いたり、いくらか借金もできたりして徐々に追い込まれていく場合が多い。
 伊藤たかみの小説「八月の路上に捨てる」はちょうどそういう青年たちを描いていたように思う。主人公は映画の脚本家を目指している男性だったが、結局夢を追いかけることをやめてしまう。路上に捨てたのは夢だったのだ。

 かれらのように特定の職種を希望して企業などへの就職を拒んだ若者は割合としては少ない。大半は普通に就職したくてできなかった若者だ。彼らの存在を生んでいる条件には、企業の求人数が圧倒的に少ないという現実がある。そこからこぼれ落ちた人数は、のべで言えば数百万人に上るだろう。そして企業から需要の大きかった非正規雇用者へと流れ込んだのである。個々の企業にはそれぞれ事情があったにせよ、全体でとらえれば彼らは作られた存在だと言える。
 とはいえ、当事者に言わせれば、それは仕方なくそうしたのではなく、自分の希望に合わなかったかったから自らそうしたのだというかもしれない。そういう選択が若者らしい生き方なのだと宣伝されたらそれに乗りたくなるのも無理はない。自分の自尊心を何年間かは生き延びさせることもできる。誰かが言っていたが、彼らは自分の境遇を社会のせいにはしようとしないらしい。社会のせいにすると自分が弱者になってしまい、プライドが傷つくからだという。

 人間は、基本的には、自分の生きてきた過程を正当化したいものだ。意地悪く表現すれば、今の自分が説明できるように過去を解釈しなおしているのである。都合の悪い事実は闇に葬る。身に覚えのある話だ。しかし、それでよしとするわけにはいかない。
 今の自分の説明を、単に個人的な生き方の意味付けではなくて、社会的な環境の中での解釈を必要とする。自分が選んだには違いないが、そうせざるを得なかった状況があったのではないか。また、自分だけではなく同類があまたいるならば、そこには社会的な仕掛けがあったろうし、構造的な背景があったに違いないと。
 社会的な視座を獲得し、自分自身を社会の側から捉えかえすことだ。それですぐに今の客観的な状況から抜け出せるわけではないが、受動的な生き方から攻勢的な生き方に変えることができる。パラダイム転換という考え方があるが、生き方のパラダイムを変えなければならない。求めるのは、オンリーワンでもなければ、ナンバーワンでもない。生きるに値する自分である。「ワン」にこだわるのは、人を孤立した個人ととらえるすぎるからだろう。普通の社会人なら、自分の仕事で誰かが満足し、そのことで自分の生活も確保されればよい。同僚や顧客など周囲の人々との関係で人が「活かされる」社会でなければならない。そのことがさせてもらえない社会ならば異議を申し立ててよいのではないか。

 1998年から自殺者は3万人を下回ることがない。病気や人間関係などの原因に加えて経済的な理由によるものが上乗せになって増えたのである。何かの番組で、製造工場が集まる(大企業だけではなく、その傘下に下請けがぶら下がっている)工業団地近辺に自殺者が固まる現象があるそうだ。それ以上のデータは知らないが、そういう場所に、働く者が「活かされる」仕組みのないことが原因になっているのではないか。仕事そのものが辛いからという理由ではなさそうである。

 人間は、前向きに、場合によっては楽しく仕事をすることができる。厳しい仕事に耐えることもできる。ただ、働くことに意味や理由が欲しいのである。空想的でない、現実的な理由が。

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