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2010年10月 1日 (金)

小池真理子 「恋」

 直木賞を受賞した作品である。新潮文庫の裏表紙には、小池文学の頂点を極めた作品と紹介されている。小池さんの作品は初めてだったので、小池文学とはいかなるものか知らない。

 大久保という名の青年が雛子の前に現れてからストーリーが一変する。それまでは腹違いの兄である夫(私生児であったために婚姻できた)の片瀬信太郎を愛しながらも、夫以外の男性とも関係を結んでいたのだが、本気になることはなかった。しかし、大久保には出会った瞬間に心を奪われ舞い上がってしまったのだ。片瀬は、雛子の隠し事のないオープンな交遊は許容してきたが、大久保との正味の恋愛は許すことができなかった。二人の関係は一気に険悪になり、片瀬は雛子に暴力まで振るうようになり、雛子は大久保のもとへと逃走する。

 さて、この小説の主人公は矢野布美子である。M大学の学生であり、学生運動家である唐木を恋人に持っていた。同棲生活を送っていたが、唐木が病気になったこともあって関係が冷え、結局唐木が部屋を出て行った。その後、知人から条件のよいアルバイトとして片瀬の仕事の助手を紹介される。それは英国の小説を片瀬が口頭で訳したものをノートに書き留める仕事だった。その小説とは男女の奔放な性を描いたものであったが、片瀬夫妻と布美子との関係もそこに描かれる世界に似たものになっていく。布美子は、現実感のない有閑階級的な世界に耽溺する。

 大久保の登場は、虚構の世界を崩壊させた。夢から覚めたように生々しい世界が現れた。欲望と嫉妬と侮蔑の渦巻く世界。この回転にこの物語の焦点がある。並行して語られている「学生運動」の終着駅たる浅間山荘事件の終結もまた、虚構の崩壊であった。夢の世界の終焉を象徴的に描いたのが、この小説ではなかったのではないだろうか。
 矢野布美子は片瀬夫妻と自分との関係を壊し自分を嘲る大久保に憎悪を感じ、軽井沢の別荘で猟銃を使って殺害する。そして殺人犯として刑を受けた後、世間から隠れるように生活を送っていたが、若くして癌を患い死亡する。片瀬夫妻もまたひっそりと暮らしていたが、矢野布美子のことは忘れていなかった。決して再び会おうとはしなかったが。

 ところで、片瀬夫妻は腹違いの兄妹だったが、それにどれほどの意味があったのだろうか。

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