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2010年8月18日 (水)

宮部みゆき 「理由」

 夏休みでたっぷりと時間があるので読書に精を出すことにした。まず手にしたのが宮部みゆきさんの「理由」。直木賞受賞作である。文庫本で700ページ近い大作だ。宮部さんの長編では以前「火車」を読んでいて、非常に面白かったので今回も期待しながら読んだのだが、正直言って「火車」ほどではなかった。専門家ではないので作品としての完成度は測りかねるが、単純に面白さでは劣っていると感じた。「火車」も直木賞候補作だったが受賞せず、間に二つの候補作を挟んで「理由」での受賞となった。直木賞は、数回候補に上がった後の受賞が多く、単一の作品だけでは評価できない面がある。

 本作品は、競売にかけられた高級マンションを巡るストーリーである。関係するいくつかの家族が登場し、それぞれの家族のなかでの出来事からこのマンションで発生した殺人事件の内容が次第に明らかにされていく。小糸家は夫婦と男の子が一人の三人家族である。夫婦ともに分を超えた贅沢な生活を志向しており、この高級マンションの購入にも無理があった。けっきょくローンの返済が滞り、金融機関の差し押さえが入り、競売にかけられることになる。買受人は大型トラックの運転手石田直澄であった。彼も資金に余裕はなかったのだが、財産がないことに日頃から負い目を感じており、息子からその点を非難されるに及んで分不相応な買い物に走ったのである。事件は、小糸家の主人信治が一起不動産の社長である早川に執行妨害を依頼したことに始まる。早川は占有屋を頼んで、石田に物件が引き渡されることを妨害する。占有に加わったのは、砂川信夫とその妻里子、息子の毅、母親のトメだったが、信夫と他の3人は互いに赤の他人だったのだ。それぞれ事情があって元の生活の場から姿を消して信夫と暮すようになっていたのである。
 早川の狙いは根負けして石田が立ち退き料を払うか、安く第三者に売り渡すかだったが、毅が抜け駆けして石田に占有屋を追いだすことを条件に1千万円を要求した。しかし、砂川に企みを知られた毅は「里子」「トメ」も含め3名を殺害するのである。そして、毅自身もたまたま現場を訪れた宝井綾子によってベランダから突き落とされてしまうのだった。綾子は、自分の子を身ごもらせたにもかかわらず結婚を拒否した相手であった。

 新聞を毎日見ていると、競売物件が多数公開されていることを知る。また占有屋を使った執行妨害についても報道で耳にすることがある。ここに描かれている世界は、身近に起こっている、あるいは起こっても不思議ではない事態である。そのことによって現実味に溢れた作品になっている。マイホームを購入してローンの返済に汲々としている者には他人事には思えないストーリーだ。そういう意味では読者の関心は高いだろうし、同時に教育的機能も果たしていると考えられる。
 残念ながら読んでいて面白さに欠けたのは、テーマに対する読者の理解を深めるために説明がくどくなりすぎている点に原因があるように思われる。関係する家族の人間模様と言うか、生の会話のやりとりなどをより重視すれば、背後にあるマイホームの取得を巡る社会問題をもっと際立たせることが出来たのではないかと思う。

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