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2010年7月17日 (土)

「夜を守る」 石田衣良

 石田衣良の本は、アキハバラ@DEEPに続いてこれが2冊目である。前回は秋葉原を舞台にオタクの青年たちが事業を始めたり、それを乗っ取ろうとする悪者と戦う物語だったが、今回は上野アメ横を舞台に展開する。フリーターの青年をリーダーとする四人組が、街の安全な環境作りのためにボランティア活動を始める。自転車を整列させたり、ゴミを拾ったり、酔っ払いの介抱をしたりの日々。そんな地味な活動のなかでいくつか事件を解決しながら自分たちの生き方について考えていくストーリーだ。
 そこそこの私大を出たが就職を避け、フリーターを続けるアポロ。私大をやめ、専門学校を経て区役所に勤めるヤクショ。家業の古着屋を手伝うサモハン。三人は地元の中学の同級生だ。ここに障害者の生活支援施設「のりすの家」に暮らす「天才」が加わる。彼らの溜まり場はさびれた定食屋の「福屋」。そこから日課のパトロールに出ていく。そして、そのなかで遭遇する風俗店に対するいやがらせ問題、ダンサーの疾走事件、5年前の傷害致死事件、街の商店を狙った窃盗事件などを次々と解決していくのである。
 読み物なので、一つひとつの内容については言わない。発生した問題が短期間にたやすく解決してしまうとか、出てくる人びとの大半が善良に描かれているとか、そういうことはある。けれども、そうでなければ深刻な小説になってしまうので、安心して読ませるには必要な設定である。全体を通した感想は、最後の最後になって出てくる作者の言いたいことを表した一文から生じる。文庫版の312ページだ。「この一年間、たくさんのことがあった。自分たち四人は力をあわせて、このアメ横の街のためにすこしずつできることを続けてきた。だが、アポロは気づいたのだった。人のためだと思っていたことのすべてが、実は自分たちのためだった。街を守ることで、この格差の世の中で絶望の側に転げ落ちそうになっていく自分を守っていたのだ。街はそれを守ろうとする人間に、しっかりとこたえてくれた。」(太字は私が入れた)
 作者の考え方はテレビ番組のなかでのコメントでも分かるが、格差社会に対する憂慮がある。社会的な要因はしっかりと見据えてはいるが、個々の若者に対してはそういう状況に負けず、自助努力をしてほしいと願っている。そのためのキーワードは、「人のため」である。結果的に、それは「自分のため」だったことを知るのである。石田衣良はそのことが分かっている。最初から自分のための行動だったら、街はしっかりとこたえてくれなかったに違いない。

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