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2009年11月 3日 (火)

野村芳太郎 「張り込み」

 松本清張の短編小説を映画化した作品。1958年に、橋本忍の脚本で野村芳太郎がメガホンをとった。1958年といえば私が生れた年である。野村監督は1919年生まれ。加藤周一と同じ年に生まれている。亡くなったのは2005年で、加藤氏よりも3年早い。それでも85歳まで生きている。黒沢明の助監督を務め、監督として山田洋次を育てた。
 野村芳太郎と言えば、なんと言っても1974年の「砂の器」である。そしてそれに続くのは、1978年の「事件」と「鬼畜」だ。私はそれほどたくさん映画を観ている方ではないが、そのなかではいずれの作品も上位に位置づけられる秀作だと思う。

 さて、「張り込み」だが、ある女の主婦としての平凡な生活を追う場面がかなりの時間を占めるので、少々退屈してしまう。全体として地味な映画である。女は年長の銀行員の後妻に入り、先妻の子3人とともに平凡な生活を送っている。3年前に分かれた男が殺人事件を犯して、逃亡中にこの女に接触をする。それを張り込んでいたのが警視庁の刑事2人である。女は無表情で、感情がないかのごとく淡々と生活を送っていたが、昔の恋人に会うや否や大胆で感情豊かな女に変身する。このギャップに、この映画の唯一の面白さがあると言ってよいだろう。高峰秀子が好演している。ちなみに、刑事役は宮口精二と大木実である。
 興味深いのは、この映画から見てとれる(私が生れた年の)世の中の状況である。経済成長はまだ始まったばかりで、生活の様子は今と随分違う。東海道線の急行列車は蒸気機関車で運行している。道路には信号がない。舗装されている道もまだ少ない。舞台になっている佐賀市では、市内の川で子どもたちがまだ水浴びをしている。買い物は道端に並んだ露店でしている。一日の食費が80円。旅館の宿泊費は3食付きで650円である。これから考えると物価はおおよそ現在の10分の1程度だったと考えられる。風呂は石炭で沸かしている。当然ながら、列車にも家にも冷房はない。旅館にさえ扇風機がない。ストーリーは真夏に展開するので、とにかく暑そうである。汗だくの捜査とは、ああいうのを言うのだろう。そんななかにあっても、逃亡中の男と人妻となった女が再会する山中の温泉場には涼しい風が吹いているように感じられた。思い切って二人の生活に足を踏み出せなかった男と女の悲哀がそう感じさせたのかもしれない。

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