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2009年5月31日 (日)

Sさんの言動について

 今日の朝刊に、新潮社の広告があった。そのなかで、作家SさんのエッセイがPRされていた。この本を読んだわけではないので、内容に立ち入ることはできないが、Sさんは保守の論客として広く知られており、おおよそ見当はつく。気になるのは、PRの文句で、それは本文からの抜粋ではなく、新潮社が考えたものである。『これが海外の「貧困」の現実だ。日本に「格差」などあるといえるのか。』『作家の冷静な視線が日本の「格差社会」を嗤い飛ばす。』とある。

 アフリカや南アジアに深刻な貧困問題があり、そこに目を向けることは重要な活動であると思う。その問題で日本がイニシアチブを発揮することは、国際政治において有益である。しかし、海外の貧困が、日本の現状を問題なしと結論付ける根拠になるのだろうか。われわれにとって優先すべき課題は足元の問題である。確かに飢え死にする人は滅多にいない。(それでもゼロではない。)しかし、病気や失業で安定的な収入を欠く人が多くおり、現金がなければたちまち困窮するのが現実である。当事者たちは文字通り路頭に迷うことになる。警視庁の発表によれば、1~4月までの自殺者数は1万1千人を超え、過去最悪のペースであり、昨年後半からの経済情勢の悪化が背景にあることは疑いえない。この様な状況を「嗤い飛ばす」ことができるだろうか。

 Sさんは、日本人に厳しい人だ。世間に頼らず、行政に頼らず、自分の力で生きて行きなさいというのが彼女のスタンスだ。彼女が大衆に寄り添い、大変だけれども、頼るところがない以上、元気を出して生きていこうじゃないかと鼓舞しているのなら理解もできようが、そうではなく、上から見下しているとしか思えない。今回の事態は、グローバル化という大きな流れに、企業と行政という個を超えた力が加わって生じた、構造的変化が基礎にある。個人の怠慢とか甘えとかに由来するというものではない。それを、すべて、「甘えるな」というスタンスで切られたのではたまらないではないか。

 言論は自由である。出版も自由である。手に取った人には、鵜呑みにしないで批判的に読むことを期待したい。

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