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2008年9月 7日 (日)

フリーターの反乱

 小林多喜二の「蟹工船」が売れている。少し前に40万部を超えたという話を聞いたので、今では50万部ぐらい売れているかもしれない。自然発生的にこれほど売れるわけはないから、ネットなどの媒体を使ってどこかで仕掛けられたのは間違いないが、本の数よりも、こういう本を購入する層が今の社会に形成されているという事実の方が衝撃的なのである。

 購入者のなかには、いわゆるインテリ層も多いと思われるが、今社会問題化している「フリーター」たちが多く含まれているようだ。詳しい調査がないので、その割合は分からない。また購入の動機についても詳しくは分からないが、貧困や隷従に対する共感があることは間違いない上に、自分を、「蟹工船」の労働者たちと似通った「層」としてとらえ始めていることが大事なポイントである。それは「階級意識」と呼ぶほどはっきりしたものではないが、彼らの境遇に社会的物質的基盤があることを自覚し始めたことは間違いない。それでなければ「蟹工船」などという特殊な文学が、今の社会に受け入れられるとは思えないのだ。私も二十歳前後の青年期にこの文庫を読み、それなりに考えるところはあったが、当時でも政治や文学に興味を持つやや左翼に傾いた青年達か、本物の労働運動あるいは革新的な政治戦線に身を投じる者に限って読まれる、発行部数の少ない小説であっただろう。

 さて、このように自分たちを「層」あるいは「集団」として意識し始めたフリーターたちは、今後どのように組織化されていくのであろうか。ひとりひとりはバラバラに雇用されており、元々組織化の基盤を持たない。したがって非常に不安定な身分に繋がれている。そんな中にあっても、ボランティア組織を通じて連帯の輪が広がり始めている。数百名単位の集会やデモ行進はテレビでも取り上げられるようになった。格差問題は何年も前から社会問題化していたが、非正規雇用者が層として立ち上がり始めたのはある意味、かなり遅れてやってきた現象だと言える。

 元来、かれらを組織化する能力をもったものとして、労働組合、革新政党、宗教団体などがあるが、どれもまだ十分な結果を出せていない。かつて高度成長の時代は、人口の増加も相俟って、それらの組織も大きくなっていった。しかし、今では、それらは十分機能していない。誰が、どのようにして一つの大きな運動体へと導いていくのであろうか。それとも危機感を抱いた政府によって、形式的に雇用主との雇用契約を変え、名ばかりの「正社員」として体制に取り込まれていくのであろうか。

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