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2008年9月14日 (日)

「ルポ貧困大国アメリカ」 堤未果

 アメリカの貧困の実態を伝えるルポである。

① 貧困が肥満を生み出している。アフリカ系米国人とヒスパニック系米国人は所得が低く、食事は低価格高カロリーのジャンクフードに頼らざるをえない。

② 防災事業が民営化されたために、防災対策の質が低下し、災害の被害が拡大した。ハリケーン「カトリーナ」で被災した住民の多数が貧困層であった。

③ 国民皆保険制度がないアメリカでは、民間の保険会社の医療保険に頼らざるをえない。しかも、保険料がすこぶる高く、貧困層にはとても支払える金額ではない。したがって具合が悪くなっても市販の薬で我慢し、いよいよひどくなってから病院へ駆け込む。医療費は高額になり、以後多額の借金を背負うことになる。

④ 兵隊の供給源として貧しい若者が狙われている。移民の子である若者は将来の生活改善のために大学進学を目指すが、高額の学費を支払うことができない。あるいは、学資ローンの返済に困っている。これを肩代わりする代わりに兵隊への志願を勧誘するのである。教育予算が削減されたことにより、大学の学費が高騰し、若者の借金が膨れていることがこの事態に拍車をかけている。

⑤ 軍まで民営化されている。軍事費を抑えると同時に、戦争への批判を弱める働きをしている。戦地(イラク)で補給活動にあたる要員が派遣会社によって集められ、送り込まれている。募集するときに説明を受けた条件と現地での実態とは大きくかけ離れている。米国だけではなく、貧困な世界の地域から送り込まれている。また、補給要員だけではなく、民兵が派遣会社に雇用されて送り込まれている。彼らのなかにも戦死者はいるが、統計には上がってこない。

⑥ 不法入国者を含む移民たちはアメリカ社会の最底辺に押し込まれている。新自由主義の名の下、規制緩和、税制のフラット化、資本行動の自由化がすすめられ、結果富裕層と貧困層への二極化が劇的に進行した。ある意味、低賃金労働者が底辺で社会を支えているのである。学生がアルバイトをする場合、マクドナルドの時給は5ドルでこれも低いが、移民の子が違法に就労する場合2ドルということもあるようだ。①に書いたジャンフードも貧困層をターゲットにした商品であるが、いわゆる貧困ビジネスの典型はサブプライムローンである。本来返済能力のない貧困者に貸し付けを行うことは常軌を逸した経済行為であるが、住宅の価格が上昇していたがゆえに、形として担保としての体をなしていた。ところが、一部の識者が警告を発していたように下落をはじめ、大量の焦げ付きを発生させたのである。経済的な悪影響も大きいが、差し押さえを食らった貧困者たちは過去に大きな負債を負うことにより、もはや未来に希望を持つことを禁じられた。

⑦ 何もかもが民営化された。医療など、人の命にかかわる事業は国が責任をもって行うべき領域であり、民営化にそぐわない。民営化は利益を最優先し、徹底的な合理化、コスト削減が行われる。最終的にはサービスの低下が起こり、ここでも貧困者が切り捨てられる事態が発生する。

 これらの事例は、日本でも起こりつつある事態であり、未来を予想させるに十分な内容である。小泉的手法による規制緩和の道は、確実にこの結果を引き寄せるだろう。何か手を打たなければ、この恐ろしい現実がもはや一歩先には待っているのである。

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