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2008年7月13日 (日)

天野節子 「氷の華」

 久しぶりにミステリーを読んだ。昔風に言えば、推理小説の範疇に入るのだろうか。この作品は天野節子という人のデビュー作である。デビューしたといってもこの人昭和21年生まれだから驚きである。

 文庫で5百ページ(昔に比べて字が大きい。中高年にはやさしい作りです。)の大作であるが飽きずに読みとおせた。全体にバランスがよいのだろう。構成要素のひとつひとつには新奇なものは感じないが、うまく組み立てているという印象があった。

 こういうサスペンスものは、特に「偶然」がものをいう。たとえば、この話のなかで、殺害される女性が帰省中にたまたま勤め先の上司のひき逃げ現場に居合わせるのであるが、こういうことが起こる確率はゼロに近い。しかし、これがなければ話はつながらない。そんなことありえないという思いにとらわれないのは、読者がそういう前提をあらかじめ持っているからだろう。私にしても松本清張や佐野洋をけっこう読んできたので、この場面はつぎにどこにつながるのかという関心をもって読み進むことになる。

 刑事の追及の執拗さという点では、松本清張ほどのすごみはない。清張はしつこい。犯人の「悪さ」加減も尋常ではない。とはいっても、犯行に及ばざるを得なかった事情の説明は念入りである。その事情にこそ、主題があるように見える。

 清張との比較はあまりに厳しい話である。62歳で初めて出版した(初めて書いたかどうかは分からない)ということには意味がある。関心があり、技量もあるのに書く機会がなかった人も数多いであろう。そういう人のなかから書き手が出現する可能性は、まだまだあるのではないか。

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